はじめに
2019年に創設された「特定技能」制度は、日本の人手不足を背景に即戦力の外国人材を受け入れることを目的とした在留資格制度です。制度は「特定技能1号」と「特定技能2号」の2段階に分かれており、特定技能1号が比較的初歩的な技能と日本語力を持つ人材を対象とする一方、特定技能2号はより高度な技能を持ち、長期的な就労が可能な外国人材に対して付与されます。
本記事では、特定技能2号に移行するための要件について、特定技能2号移行の際に見落としがちなポイントも踏まえて詳しく解説します。
特定技能2号の特徴
• 在留期間の上限がなく、更新により長期間就労することが可能
• 家族(配偶者・子)の帯同が可能になる
• 特定産業分野のうち現在は対象分野が介護を除く全分野拡大中
特定技能2号の基本的な制度概要と背景
特定技能制度は、日本の労働人口の減少に伴う労働力不足に対応するため創設されました。制度上、特定技能1号は「相当程度の知識または経験を必要とする技能」、特定技能2号は「熟練した技能」を有する者が対象となっています。
特定技能1号は最長5年間の在留期間とされ、家族帯同はできません。一方で、特定技能2号は在留期間の上限がなく、家族帯同も認められます。また当初、特定技能2号が認められていたのは建設分野と造船・舶用工業分野のみでしたが、2023年以降、対象分野が段階的に拡大され、現在は製造業や飲食料品製造業、外食業など介護を除く全分野が対象となっています。
特定技能2号への移行要件と注意点
特定技能2号への移行には、以下のように法令に基づいた複数の要件を満たす必要があります。
技能水準の証明
特定技能2号では、業務に関して「熟練した技能」が求められるため、原則として2号の技能評価試験への合格が必要です。しかしこれに代えて、当該分野の技能検定1級の資格を取得している場合は、当該試験が免除されることになります。
たとえば、工業製品製造業では「製造分野特定技能2号評価試験」及び「ビジネス・キャリア検定3級」への合格が求められますが、「機械加工」「プレス作業」などの技能検定1級に合格している者は、これらの試験が免除されます。
実務経験の証明
多くの分野では、単に技術を持つだけではなく「管理者としての実務経験」が求められます。これは2号評価試験申込時や在留資格変更申請時に証明する必要があります。
• 飲食料品製造業を始めとした多くの分野では、管理的立場(班長など)での2年以上の経験が必要です。
また飲食料品製造業においては、実務経験について経過措置があります。2023年6月10日から数えて在留期限上限(5年)まで2年6カ月未満しかない場合は、残余期間から6カ月を差し引いた期間の管理等実務経験で実務経験を満たすことができます。つまり、2年の指導・実務経験期間がない場合でも申請ができるということになります。
• 工業製品製造業では、日本国内に拠点を持つ企業の製造業の現場における3年以上の現場実務経験が求められますが、管理者としての経験までは求められていません。
この経験を証明するには、雇用契約書、出勤簿、給与明細、実務経験証明書などの書類提出が求められます。
日本語能力
特定技能2号に関しては一般的に日本語の能力は求められません。しかし、漁業、外食業分野においてはJLPT N3以上、もしくはそれに相当する日本語能力が必要とされています。
在留歴
特定技能1号としての就労を経ることが一般的です。しかし特定技能2号に該当するような高い技能水準を持つと認められる外国人は、特定技能1号を経ることなく、直接特定技能2号の在留資格取得が可能です。具体的には、特定技能2号の試験に合格し、分野ごとに定められた一定の実務経験を積むことで、特定技能2号へ直接移行ないし取得することができます。
分野別の具体例:飲食料品製造業・工業製品製造業
飲食料品製造業のケース
この分野では、対象となる業務区分ごとに試験が別れているわけではなく、試験区分としては、「飲食料品製造業全般(飲食料品(酒類を除く。)の製造・加工及び安全衛生の確保)及び当該業務に関する管理業務」の一つとされています 。またこの試験に合格するほか、「複数の従業員を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者としての実務経験」が2年以上あることが要件となっています。
ポイントは、「ただ作業に従事していた」だけでは要件を満たさないことです。ラインリーダーや班長などの立場で、複数のメンバーを統括しながら工程管理を行っていたなどという実績を、文書で証明できるようにしておく必要があります。
工業製品製造業のケース
工業製品製造業では、主に以下のいずれかのルートで2号への移行が可能です。
• 「製造分野特定技能2号評価試験」に合格しかつ「ビジネス・キャリア検定3級」に合格している
• 各種「技能検定1級」に合格している
またどちらの場合も、3年以上の現場経験(役職なしで可)が求められるため、入社からの経歴管理が非常に重要です。この実務経験を証明するために、特定技能2号評価試験の申込時、技能検定1級に合格している場合は出入国在留管理庁への届出の際に「実務経験証明書」の提出が求められています。なお、この分野では試験区分ごとに関与できる業務が異なってきます(機械金属加工・電気電子機器組立て・金属表面処理の三区分)。つまり工業製品製造分野の試験に合格していても、実際に就労する業務区分が異なる場合には許可が降りないという点に注意する必要があります。
登録支援機関・企業担当者が見落としがちな実務ポイント
移行までのスケジュール設計
多くの企業や支援機関が見落としがちなのは、ほとんどの場合特定技能2号は特定技能1号からの移行で採用スケジュールを設計する必要があるということです。なぜなら特定技能2号への移行は、日本国内に拠点を持つ企業(この場合の「日本国内に拠点を持つ企業」とは日本国内に登記している本店又は主たる事務所等がある企業をいいます)の製造業の現場における一定以上の実務経験を有することが必要であり、日本に在留する外国人の中でも、そのような現場経験を積むことが想定されているのは、1号を経由している外国人がほとんどとなります。そのため、最初から2号で採用できる場合はほとんどなく、採用段階で特定技能1号から将来的に2号への移行を見越した計画を立てることが必要です。
支援義務の消滅と代替措置
特定技能1号においては、登録支援機関による支援計画の実施が義務付けられていますが、2号ではこの義務がありません。しかし、支援が不要になるからといって放置するのではなく、労務管理や生活支援を内製化する体制整備が必要です。
まとめ
特定技能2号への移行は、企業にとっては長期的な人材確保を実現できる大きなチャンスですが、その反面、求められる技能水準や実務経験、文書証明など多くのハードルがあります。企業の人事担当者は、単なる在留管理ではなく、キャリア形成・育成計画を前提にした制度運用が求められます。
また、法改正や対象分野の拡大など制度は常に更新されています。最新情報をこまめに確認し、制度趣旨に則った適切な対応を行いましょう。
1号や2号の別を問わず、特定技能に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。