特定技能分野追加でリネンサプライ企業の人手不足解消へ

 政府は2025年5月20日、人手不足の業種で外国人労働者が働く「特定技能」の対象分野を増やす案などを検討する有識者会議を開き、物流倉庫の管理、廃棄物処理、リネン製品の供給の3つを加えて19分野に拡大する案を示しました。有識者の議論をふまえ、2025年12月までの閣議決定をめざしています。また追加する3業種での採用活動を、企業は早ければ26年度中にも始められる見通しです。今回は特に需要の高まりを見せそうな「リネンサプライ分野」に関して詳しく解説いたします。

制度的背景

コロナ明けの需要の回復

 リネンサプライ業界においては、ホテルリネン分野が好調に推移しています。エリアごとに差はあるものの、宿泊・観光施設ではインバウンド需要のほか、これまでコロナ禍で控えていた国内旅行需要が回復し、県内・近郊からの利用者も戻っており、安定した稼働が続いています。一方で、人手不足等によって施設のフル稼働ができない企業も多くあり、あえてフル稼働せず、高品質を維持した接客・サービスを提供するホテルや旅館も存在し、インバウンドの恩恵をいかに取りこぼさずに対応できるかはホテルリネン市場にとって重要となります。

人手不足

 厚生労働省の職業情報提供サイト「Job Tag」によれば、リネンサプライ業従事者(洗濯・洗濯仕上げに従事するもの)の有効求人倍率は3.1倍と報告されています 。そのため、政府は外国人労働者の受け入れを拡大するため、リネンサプライ業を「特定技能」ビザの対象分野に追加する方針を検討しています。

現行制度から想定される新制度の設計

特定技能1号取得の要件

 現在、特定技能1号を取得するためには以下の2つのパターンのいずれかをクリアする必要があります。

  1. 技能水準(特定技能1号技能評価試験)+日本語能力(日本語能力テストN4以上又は国際交流基金日本語基礎テスト)※分野ごとに異なる場合があります
  2. 技能実習2号良好修了

1に関しては、それぞれの試験に合格することで、特定技能1号取得の要件を満たすことになるので、ここでは主に2に関して説明していきたいと思います。

技能実習2号良好修了「技能実習から特定技能へ」

 現行制度において、技能実習から特定技能へ移行するためには、技能実習2号を「良好に修了」していることが求められます。良好に修了していることを証明するためには、「技能検定(専門級)」に合格し、合格できていない場合には「評価調書」(通信簿のようなもの)を提出する必要があります。またこのいずれかを満たすことができなくても、「技能実習での受入企業が、特定技能移行後も引き続き雇用を予定していること」及び「当該企業が過去1年以内に技能実習制度上の「改善命令」や「改善指導」を受けていないこと」この2つをもって特定技能への移行が可能となります(いずれの場合も、技能実習計画(2年10ヶ月)を満了している必要があります)。
現在ほとんどの分野では上記の通り運用されており、リネンサプライ分野においても同じ枠組みで運用される可能性が高いといえます。ではリネンサプライ分野において、具体的にどのような要件が求められるのでしょうか。最もメジャーな技能検定(専門級)合格による方法を重点的に説明します。

リネンサプライ分野において求められる要件(現行制度)

 技能検定(専門級)の合格が求められることは先ほども述べましたが、この試験を受験するためには、「リネンサプライ職種に関し、24か月以上の実務の経験を有する者」である必要があります。これに関しては、そもそも技能実習計画(2年10ヶ月)を満了しなければならないことを考えれば、特段気にする要件ではないようにも思えます。しかし、ここでいう「実務の経験」とは、衛生基準の認定を受けた施設「認定工場」での実習をいい、認定工場とは、ホテルリネン関係では(一社)日本リネンサプライ協会が定める「衛生基準」、病院寝具関係では(一財)医療関連サービス振興会が定める「認定基準」の認定を受けている工場においての経験を指します。つまり、雇おうとしている技能実習生の就労先が認定工場ではない場合、技能検定(専門級)の受験ができないこととなります。またそもそも、技能実習を修了するまでに、この試験を受験することが義務付けられているため、評価調書の発行もできないこととなり、1号特定技能外国人として、雇用することができなくなってしまうため、注意が必要です。

2027年から開始する育成就労制度との関係(新制度)

 現行の特定技能制度では、技能実習2号良好修了者であれば、技能実習から特定技能1号への移行に際して、技能に係る試験及び日本語能力に係る試験の合格を免除するものとしていますが、育成就労制度では、技能に係る試験(技能検定試験3級等又は特定技能1号評価試験)及び日本語能力に係る試験(日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等))の合格を特定技能1号への移行の要件とする方針とされています。まだ変更される可能性もありますが、試験の合格が必須の前提となることに注意が必要です。

具体的にできる作業内容(現行制度)

 以下の1~4は、リネンサプライ分野の技能実習2号において行うことのできる作業内容となります。これらの内容から分かるように、リネン工場内での作業がメインとなり、現在配送作業などは想定されていません(下記の5を参照)。そのため特定技能外国人を雇用するに当たり、作業してもらう内容には注意が必要です。とはいえ、特定技能外国人が従事する業務と、同等の業務に従事する日本人が通常従事することとなる業務に関しては、本来作業として想定されていなかったとしても、付随的な業務(関連業務、周辺業務)に従事する活動として許容される場合もあります(専ら付随的な業務に従事することは認められません)。
つまり、多少なりとも企業ごとに行う作業が異なることは制度上の想定であり、この場合、配送作業を行うことは難しいかもしれませんが、リネンの積み下ろし程度なら出荷準備作業(下記3(7))に当たり、可能な場合もあるかもしれません(個別具体的な検討が必要となります)。

1. 仕上げ作業

(1)機械投入作業
実習施設に備えられている、リネン品種(ライン)毎のスプレッダーフィーダー(投入機) 及びフォルダー(畳み機)等の仕上げ機械への正確かつ効率的な投入作業
(2)検品作業
不具合なリネンを取り除き分類するとともに、その不具合に応じて各作業工程の作業方  法、機械の状況等の原因を特定し、ライン内や他部署との連絡調整等の対応を行
(3)結束・包装作業
仕上がったリネンを品種別・サイズ別・客先別等に分類し、所定の枚数及び方法で結束  又は包装する作業
(4)仕上げ作業に伴う機械操作作業(仕上げ作業に使用する全ての機械)
(5)機械メンテナンス作業(仕上げ作業に使用する全ての機械)

2. 安全衛生業務(各業務(必須業務、関連業務及び周辺業務)の10%以上)

3. 関連業務(全体の2分の1以下)

(1)入荷・仕分け作業
(2)洗濯作業
(3)手投入作業
(4)手畳み作業
(5)染み抜き作業
(6)補修作業
(7)出荷準備作業

4 . 周辺業務(全体の3分の1以下)

(1)清掃作業
(2)他部署へリネンの運搬作業
(3)使用資材等の運搬作業

5 .  移行対象職種・作業とはならない業務例

(1)資材管理作業
(2)配送作業
(3)普通洗濯業(クリーニング業)
(4)上記の関連業務及び周辺業務のみの場合

以上が現行制度(技能実習)における業務内容(関連業務・周辺業務を含む)となりますが、今後追加される特定技能1号においては業務範囲がどこまで拡大されるのか動向が注目されておりますので続報を待ちましょう。

まとめ

 以上、リネンサプライ分野の現行制度を基に、求められる要件や可能な作業内容について説明してきましたが、これらの内容は新制度において変更される可能性があります。技能実習制度が廃止され、育成就労制度が2027年より開始されることもあり、正確に予測して動くことは難しいかもしれませんが、現行制度を理解し、新制度の背景を読み解くことで新制度に対する備えができるかもしれません。例えば現段階において新制度上の可能な作業内容がわかっていなくても、現行制度における注意点(同じ分野の中でも就労可能な作業と不可の作業があるなど)を理解していれば、スムーズな新制度の理解にもつながるといえます。

リネンサプライ業界をはじめ、深刻な人手不足に直面する現場では、特定技能制度の活用が今後ますます重要になっていきます。当法人では、技能実習から特定技能への円滑な移行支援はもちろん、在留資格取得、受入企業としての体制整備、支援計画の作成まで、特定技能制度に特化したトータルサポートを提供しています。

外国人の受け入れをご検討中の企業様は、どうぞお気軽にJAPAN行政書士法人までご相談ください。貴社のニーズに応じた最適なご提案をさせていただきます。