特定技能外国人に対する事前ガイダンスの徹底解説 ― 制度理解・定着支援・ミスマッチ防止―

事前ガイダンスとは? 制度上の位置づけと基本的な内容

 事前ガイダンス(Pre-Employment Guidance)は、特定技能制度において受け入れ企業登録支援機関が外国人材に対して就労前に実施する「義務的支援」の一つです。これは、外国人材が日本での生活や就労をスムーズにスタートできるようにするためのもので、出入国在留管理庁の「特定技能ガイドライン」で明確に定められています。

実施のタイミング

 事前ガイダンスは「雇用契約の締結後在留資格認定証明書交付申請または在留資格変更許可申請の前までに実施すること」とされています。支援計画は、在留資格「特定技能1号」の許可申請時に必要書類の一部として提出され、内容の適正性が審査されます。

ガイダンスの内容

 以下は、事前ガイダンスで求められる具体的な内容の一部です。ポイントは生活支援労務理解の両立です。

• 制度概要の説明

•「特定技能1号」の在留資格の性質、期間、更新要件

•技能測定試験、日本語能力試験の概要と継続的学習の必要性

•将来的な永住や家族帯同との関係(特定技能2号など)

• 雇用条件の明示

•就労場所、業務内容、就労時間、休日、賃金、社会保険 ・雇用契約書の読み合わせ(翻訳版を活用)

•試用期間の有無、評価制度や昇給の仕組みの説明

• 労働者の権利と義務

・労働基準法、最低賃金法、労災や雇用保険制度の説明 ・パワハラ・セクハラなどの相談先(社内外)

•日常生活の案内

 •住居の手配や生活インフラ(電気・水道・ネット)

・日本のゴミ分別、交通マナー、宗教・文化への配慮

・病院や緊急時の連絡体制など安全面の支援体制

• 支援計画の内容説明

•登録支援機関による日本語学習支援、生活相談窓口 ・定期的な面談や、転職・退職に関する支援

これらはすべて、本人が「理解した」と確認できるように記録を残す必要があります。支援計画に沿っていない場合、入管からの是正指導や許可の取り消しもあり得ます。

なぜ事前ガイダンスがそれほど重要なのか ― 離職リスク、誤解、文化ギャップを防ぐために ―

① 外国人材にとっての“最初の接点”

特定技能外国人の多くは、来日してすぐに業務に就くことになります。言語の壁、文化の違い、制度への不安がある中で、事前ガイダンスが本人にとって「この会社・この職場は安心できる場所かどうか」を判断する材料となります。ここで信頼感を築けなければ、就労開始後のトラブルや早期離職につながるリスクが高まります。

② ミスマッチによる早期退職の防止

 特定技能制度の一番の課題は「ミスマッチによる離職」です。多くの企業が採用に多額のコストをかけていますが、「聞いていた話と違う」「仕事がきつすぎる」といった理由で、わずか数か月で辞めてしまうケースも見られます。これは、ガイダンス時に雇用条件や現場の実態が十分伝えられていなかったことが原因であることが多いのです。

③ 日本語の理解力や文化的背景の差を埋める

 多くの特定技能外国人はN4程度の日本語力しか持たないケースが多く、専門用語や法制度、雇用形態の説明が難しくなることがあります。また文化的価値観の違い例:上下関係の捉え方、曖昧な表現への理解)も誤解の要因になります。事前ガイダンスで視覚教材や母語サポートを導入することで、これらのギャップを最小限に抑えることができます。

④ トラブル時の対応力向上

 就労後に何らかのトラブルが発生した際、外国人本人が「どこに相談すればよいか」「どこまで主張してよいのか」を事前に把握していれば、トラブルの拡大を防ぐことができます。これは受け入れ側にとっても大きなリスクマネジメントの手段となります。

効率的かつ効果的な事前ガイダンスの進め方 ― 継続的支援とツール活用で“伝わるガイダンス”へ ―

① 多言語・視覚的ツールを活用する

 単に日本語で説明をしても、理解度は高まりません。次のようなツールの併用が効果的です。

• 翻訳されたスライドや動画教材(行政支援やJITCOなどから入手可能)

• イラスト付きの就労マニュアルや生活ガイド

• YouTube動画による制度説明(字幕付き)

• 通訳者や母語話者のサポート導入

特に動画教材は、遠隔地での実施や再視聴による理解定着にも有効です。

② オンラインと対面を併用する

 COVID-19以降、ZoomやGoogle Meetを活用したリモートガイダンスが普及しました。初回はオンラインで雇用条件や支援体制を説明し、来日後や初出勤前に現場での対面フォローアップを実施する「二段階ガイダンス」形式が特におすすめです。 録画を残すことで、本人も後から確認でき、「説明を受けていない」と言われるリスクも防止できます。

③ 理解度の確認と記録の保存

• 確認テストやクイズ形式の理解チェックを取り入れる(例:「自分の給与の締め日は?」など)

• ガイダンス記録簿や本人署名付き確認リストを作成し、保存する

• 登録支援機関と連携して、ガイダンス後のフィードバックを集める

これにより、実施内容の証明や行政提出用資料としても活用できます。

④ ガイダンスは“1回きり”ではない

 本来、事前ガイダンスは受け入れ後の継続的な支援の第一歩であるべきです。定期的にフォローアップ面談を設定し、初期の不安や業務上の問題を把握・解消していくことが重要です。 また、外国人材にとっては、環境の変化(引越し・業務変更など)もストレス要因になります。こうしたタイミングで、再説明や補足ガイダンスを行うことが定着率の向上に繋がります。また受け入れ後は実際に、定期面談として3ヶ月に1回以上、オンラインまたは対面での面談が必要となります。

就労開始後の定期面談:オンライン面談の要件

2025年4月1日施行の制度改正により、特定技能外国人に対する定期面談の原則対面実施が明確化される一方で、一定条件を満たせばオンライン面談も可能となりました。外国人本人とのギャップが生じないよう、事前ガイダンスの時点で就労開始後の定期面談に関して説明しておくことが重要です。

• 本人および監督者の同意取得(記録を保存)

• 面談の録画記録を保存(契約終了日から1年以上)

• 年1回以上の対面面談を推奨

初回面談や面談担当者の交代時は対面が望ましいとされており、また、第三者の介入が疑われる場合などは再度対面面談を求められます。

定期届出の頻度変更

• 改正前:四半期に1度(年4回)

• 改正後:2025年4月15日提出分を最後に、2026年度以降は年1回

事務負担の軽減が期待されますが、情報収集体制の整備が重要となります。

事前ガイダンスは「安定雇用」への第一歩

 特定技能外国人の受け入れは、単なる「労働力確保」ではなく、国際人材との共生・協働を意味します。受け入れ成功の鍵は、就労前の「理解と信頼」の構築にあります。 制度理解の共有、文化・言語の壁の解消、支援体制の明示という3本柱を意識し、ガイダンスを「形式的な義務」から「企業と外国人材の架け橋」へと昇華させることが、持続的な雇用と企業の競争力に直結します。

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