はじめに:深刻化する介護人材不足と制度の意義
日本は世界でも有数の超高齢社会を迎え、介護業界では年々人手不足が深刻化しています。特に都市部を離れた地方では、慢性的な人材難が続き、事業所の閉鎖やサービス縮小に追い込まれるケースも増えています。こうした状況の中で、2019年に導入された「特定技能」制度は、介護人材不足の対策として注目されています。これは外国人が日本で就労できる新たな在留資格であり、即戦力として介護の現場で働くことを可能にする仕組みです。
制度の概要と受け入れの要件
特定技能1号は、人手不足産業に対応する形で導入された制度で、介護分野もそのひとつです。この資格で来日・就労する外国人には、一定の日本語能力と専門知識が求められます。具体的には、日本語に関する要件として、「日本語能力試験(JLPT)」N4レベル以上または「国際交流基金日本語基礎テスト」及び「介護日本語評価試験」に合格(介護日本語評価試験の合格は常に求められる)していること、そして技能に関する要件として、「介護技能評価試験」に合格していることが条件です。
この在留資格では、最長で5年間、日本全国の介護施設等で勤務することができます。技能実習と違い、同一分野内での転職も可能であることから、本人の意思によって職場を選ぶ自由度も比較的高く設定されています。
外国人介護人材を受け入れるメリット:具体例とともに
1. 即戦力としての活躍と職場の活性化
まず特筆すべきは、特定技能で来日する外国人介護人材の多くが、母国で日本語や介護技術を一定期間学習し、試験に合格したうえで就労している点です。これにより、入職直後から実務に適応できるケースが多く、職場の教育負担を大幅に軽減できます。
例えば、東京都内の介護付き有料老人ホームでは、フィリピン出身のスタッフが入職半年で入浴介助や食事介助の主担当として活躍しています。彼女は日本語能力試験N3に合格しており、日本人スタッフとほぼ変わらぬコミュニケーションを取りながら、忙しい現場で頼りにされています。
こうした即戦力の人材は、施設全体のサービス品質を維持・向上させるうえで欠かせません。加えて、外国人スタッフの明るく前向きな姿勢は、職場に新鮮なエネルギーをもたらし、日本人スタッフのモチベーション向上にも繋がるという声も多く聞かれます。
2. 体力面での強みと業務負担の軽減
介護の現場では、利用者の移乗介助や入浴介助など身体的負担の大きい業務が多く、特に高齢スタッフが多い職場では大きな負担となっています。介護人材自体の高齢化も進む中、若い外国人介護人材は体力に恵まれていることが多く、こうした重労働を積極的に担ってもらえることは大きなメリットです。
例えば、北海道のグループホームでは、ベトナム出身の男性スタッフが主に夜勤の見守りと身体介助を担当。日本人スタッフが高齢化しつつある中で、彼の体力と集中力は夜間の事故防止にも大いに寄与していると言います。また外国人の多くは母国の家族などに仕送りをしているため、より多く稼ぐことを目的として夜勤や残業に積極的なケースも少なくありません。
このように、体力面や意欲の強みは現場の安全性を高めるだけでなく、スタッフ間の負担の均等化にもつながり、長時間労働の軽減や離職率低下に効果を発揮しています。
3. 多文化交流による利用者のQOL向上
外国人介護人材の存在は、利用者の日常生活にも新たな彩りを添えています。たとえば、介護施設で開催される季節の行事やレクリエーションに、彼らの母国の文化や食事を紹介するイベントを取り入れる事例が増えています。
神奈川県の介護老人保健施設では、フィリピン人スタッフが中心となり、毎年「フィリピン祭り」を開催。利用者は異国の音楽や料理に触れ、普段とは違う刺激を受けることで精神的な活性化が促されています。このようなイベントは、認知症の予防にも有効とされており、介護スタッフからも高く評価されています。
また、外国人スタッフとの会話自体が利用者にとって良いコミュニケーションの機会となり、孤独感の軽減や情緒安定にも寄与しています。
4. キャリア意欲と長期定着による人材育成
多くの外国人介護人材は、介護福祉士などの国家資格取得を目指して日本での就労を希望しています。実際に介護福祉士資格を取得し、在留資格「介護」へ移行して長期間勤務している例も多数あります。
静岡県の介護施設では、ベトナム出身の女性スタッフが3年間の特定技能勤務後に介護福祉士資格を取得し、現在はリーダー職として新人指導にもあたっています。彼女は「日本でキャリアを積み、専門家として認められたい」と語り、同僚スタッフの信頼も厚い存在です。
こうしたキャリアアップ志向の強い人材を受け入れることは、施設の人材育成力向上にもつながり、安定的な人員確保と質の高い介護サービスの両立に寄与します。
このように、外国人介護人材の受け入れは「即戦力確保」「体力面の強み」「多文化交流によるQOL向上」「キャリア志向による長期定着」といった多面的なメリットがあります。これらの具体的な成功事例からも分かるように、正しい支援体制を整えれば、外国人スタッフは介護現場にとってかけがえのない戦力となるのです。
課題:制度運用に伴う現場の負担と誤解
一方で、制度を実際に運用する際の課題も見逃せません。最も多く指摘されるのは、「支援体制の負担」と「言語・文化の壁」です。
受け入れ施設には、生活支援・相談支援・日本語学習支援など、いくつかの項目に及ぶ義務的支援が課されており、それを怠ると監査対象となります。これらの支援は施設自らが行うか、登録支援機関に外部委託することになりますが、いずれも人的・金銭的なコストがかかります。
また、N4レベルの日本語力では、医療用語や介護記録の記載、緊急時対応などに不安が残ります。文化的背景の違いにより、「なぜ日本人はこういう言い方をするのか」「どこまで丁寧に接するべきか」といった“暗黙の了解”が通じない場面もあります。
改善方法:持続可能な制度運用への鍵
こうした課題を踏まえ、特定技能制度を持続可能な形で活用するためには、いくつかの視点からの改善が必要です。
まず一つ目は、受け入れ側の教育と体制整備です。単に外国人を「人手」として見るのではなく、職場の一員として育成し、継続的にサポートする視点が必要です。定期的な面談や日本語研修を設け、業務マニュアルを多言語化するなど、受け入れの“土台づくり”が求められます。
二つ目に、自治体・地域全体の支援体制の強化です。地域包括支援センターや社会福祉協議会が中心となり、外国人と地域社会をつなぐ支援窓口を拡充することで、孤立や誤解を防ぐことが可能になります。地域住民と外国人スタッフが交流する場を設け、相互理解を深めることが重要です。
さらに、外国人本人のキャリアパスの支援も欠かせません。介護福祉士の資格取得に向けた教育支援や試験対策講座の整備は、本人の定着意欲を高め、長期的な戦力化につながります。これにより、在留資格「介護」への移行が可能となり、長期間日本で働き続けることができるようになります。特に、介護分野においては「特定技能2号への移行が対象外となっている」ことからも、受入企業と支援機関が一体となったサポートが重要になってきます。
訪問介護が解禁
特定技能「介護」分野では、一定の条件を満たせば訪問介護でも就労が可能となります。要件としては、介護分野での実務経験が1年以上あり、かつ「介護職員初任者研修」を修了していることが求められます。これは、日本国内に滞在中の技能実習修了者や、既に他の施設で就労している1号特定技能外国人など、すでに介護に関わっている外国人にとっては新たなキャリアの選択肢となります。
しかし、訪問介護の多くは日勤中心で、夜勤やシフト制の施設勤務に比べて手当や給与面での差が生じるため、給与面を重視する外国人労働者にとっては課題が残るのが実情です。とはいえ、働きやすい時間帯や個別ケアの魅力もあるため、安定した生活を求める人には適した職種と言えるでしょう。働きやすい時間帯や個別ケアの魅力を理解してもらうことで、安定的な人材確保につながる可能性があります。受け入れ企業としては、適切な情報提供と就労環境の整備が鍵となります。
おわりに:共に働き、共に成長する介護の未来へ
特定技能外国人の受け入れは、日本の介護業界にとって大きな希望となる制度です。しかし、真の意味で制度を活かすためには、制度の表面的な仕組みだけでなく、「人を迎え入れる」という本質的な姿勢が必要です。
言語、文化、価値観の違いを理解し、尊重しながら共に働く職場環境を整えること。それは単に労働力を補うための手段ではなく、多様性を力に変え、介護の質そのものを向上させるための挑戦でもあります。
外国人スタッフと日本人スタッフ、そして利用者が互いに信頼し合い、成長し合えるような介護の現場づくりを目指して、私たちは今こそ新たな一歩を踏み出すべき時を迎えているのです。
介護分野での特定技能外国人受け入れは、制度の理解と適切な手続きが不可欠です。ビザ申請や登録支援機関との調整、法令遵守の支援など、複雑な手続きは専門家にお任せください。JAPAN行政書士法人では、豊富な経験をもとに皆さまの受け入れ体制構築を全力でサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。