外国人雇用を検討する場合、よく聞く在留資格に「特定技能」という在留資格があります。
本記事では、多くの企業で活用されている特定技能の在留資格について、制度の詳細や申請の流れなどを解説いたします。
特定技能とは
特定技能とは、2019年4月に導入された新しい在留資格で、2024年現在では、16分野において受け入れが認められています。
制度の背景
特定技能は、国内の産業における人材不足を補完するために創設された在留資格であり、高度な専門性や熟練度を必要とする業務に従事する外国人を対象としています。本制度は、一定水準以上の技能及び日本語能力を有する外国人に、特定の産業分野において決まった業務内容に従事することを認めるものです。
少子高齢化が進み、国内の労働力が不足する中で、特定の分野で高い技能を持つ外国人労働者を活用することで、産業の活性化と経済の安定を目指しています。
対象分野
特定技能で受け入れられる分野は、製造業、建設業、農業、介護、宿泊業など、幅広い産業にわたります。これらの分野では、高度な専門知識や熟練した技術が必要とされる業務があり、国内で十分な人材を確保することが困難な状況にあります。
取得のための要件
特定技能の在留資格を取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。
【日本語能力】
特定技能1号の場合は、日本語能力試験(JLPT)4級以上のレベルが求められます(技能実習2号の良好修了者は免除)。
【特定技能評価試験】
それぞれの分野に応じた技能試験に合格する必要があります。試験の内容は、分野によって異なります(技能実習2号の良好修了者は免除)。
【特定技能所属機関】
日本国内の企業が、特定技能外国人を受け入れるための要件を満たしている必要があります。
特定技能ビザ申請までの流れ
特定技能の在留資格を申請し、日本で就労するまでの流れとしては①企業との雇用契約の締結②支援計画の策定③必要書類の収集④在留資格の申請⑤就労開始となります。それぞれの段階について下記で詳細を説明します。
①企業との雇用契約
特定技能の在留資格を申請する前に、外国人は就労予定の日本企業と雇用契約を締結する必要があります。特定技能雇用契約とは、特定技能の在留資格を有する外国人労働者と、これを受入れる特定技能所属機関との間で締結される雇用契約を指します。同契約の締結に際しては、特定技能雇用契約書の作成及び外国人労働者による署名が必須となります。
特定技能雇用契約書は、日本語に限らず、外国人労働者が理解できる言語(母国語や英語など)で作成する必要があります。
特定技能雇用契約書には、一般的な雇用契約書に含まれる事項に加え、非差別待遇の確保や、労働者の一時帰国に関する規定など、特定技能制度に特有の事項を盛り込む必要がある点が特徴といえるでしょう。
②支援計画の策定
特定技能制度は、従来の技能実習制度における経験を踏まえ、より厳格かつ様々な要件が設定された、高度な専門性を持つ外国人労働者の受け入れを目的とした制度です。
本制度の大きな特徴の一つとして、特定技能所属機関(就業先)による外国人労働者に対する支援体制の構築が挙げられます。具体的には、支援計画の策定が義務付けられており、この計画では、外国人労働者の生活支援、日本語教育、日本社会への適応支援など、多岐にわたるサポートが求められます。
特定技能所属機関が単独で支援体制を構築することが困難な場合は、登録支援機関に支援業務を委託することも可能です。登録支援機関は、専門的な知識と経験を有し、特定技能外国人の円滑な就労を支援します。
③必要書類の収集
特定技能の申請においては、特定技能外国人本人の資格や能力、特定技能所属機関の受け入れ体制などを証明するため、多岐にわたる書類の提出が求められます。以下に、それぞれの書類の役割と具体的な内容について、解説します。
1. 申請人(特定技能外国人)に関する主な書類
【申請書】
審査における中心的な役割を担う書類であり、申請人の基本情報、パスポート情報、出入国歴、職歴、および特定技能所属機関に関連する情報などを詳細に記載します。
【健康診断票】
所定期間内(国内:1年/海外:3ヶ月以内)に実施された健康診断書です。
【課税・納税証明書】
過去1年間の課税・納税状況の記録を証明する書類です
【源泉徴収票】
過去1年の収入と源泉徴収された税額を証明する書類です。
【特定技能評価試験合格証明書】
申請人がそれぞれの分野に応じた特定の技能を有していることを証明する、技能試験の合格証明書です(技能実習2号の良好修了者は免除)。
【日本語能力試験合格証明書】日本語能力試験(JLPT)4級以上のレベルを証明する、日本語能力試験の合格証明書です(技能実習2号の良好修了者は免除)。
2. 特定技能所属機関に関する主な書類
【雇用条件書】
雇用期間、賃金、労働時間、業務内容など、雇用条件を具体的に明記した契約書類です。特定技能外国人の受入れ要件を満たす雇用であることを証明する重要な書類となります。
【1号特定技能外国人支援計画書】
外国人労働者の生活や就労を支援するための計画書です。住居の確保、日本語教育、相談窓口の設置など、具体的な支援内容が記載されます。
【登録支援機関との契約書】
支援業務を登録支援機関に委託する場合に必要です。
【法定調書合計表】
企業規模の確認が出来、提出書類の省略可否の判断に用います。
3. 分野別で必要な主な書類
【分野ごとの営業許可証】それぞれの分野に応じて提出が求められます。
【分野ごとの協議会の加入証明書】特定技能外国人の受入に際して事前加入が必須です
④在留資格申請
1. 必要書類の準備
まずは、特定技能1号に係る提出書類一覧表を参考に、申請に必要な全ての書類を準備します。
申請人に関する書類(特定技能評価試験や日本語能力試験の合格証明書、パスポート、健康診断票、課税・納税証明書、源泉徴収票など)を準備します。
企業に関する書類(雇用条件書、1号特定技能外国人支援計画書、登録支援機関との契約書(委託する場合)、法定調書合計表など)を準備します。
2. 申請書の記入
申請書に、申請人の氏名、生年月日、国籍、パスポート番号、特定技能所属機関の情報などを正確に記入します。署名漏れや誤字脱字は、不受理や審査遅延につながる可能性があるため、慎重に確認する必要があります。
3. 申請書の提出
準備した申請書と添付書類を、管轄の出入国在留管理局に直接提出するか、オンライン申請システムを利用して提出します。オンライン申請は、時間や場所を選ばずに手続きできるというメリットがありますが、システム利用開始の手続きに時間がかかる場合があります。
4. 審査期間と在留資格の許可(交付)
提出された申請書は、入国管理局で厳格な審査が行われます。審査項目は、申請人の資格や能力、雇用契約の内容、企業の受け入れ体制など多岐にわたります。2~3ヶ月の審査に期間を経て、在留資格が許可(交付)されます。
⑤日本での就労を開始
特定技能外国人を雇用する特定技能所属機関は、雇用後においても法令に基づいた適切な手続きを行う必要があります。特定技能外国人の就労開始後に行うべき届出は主に下記3点となります。
1. 外国人雇用状況届出
特定技能に限らず、全ての外国人を雇用する事業主は、雇入れ及び離職の際に、外国人雇用状況届出を行う義務があります。この届出は、雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)又は雇用保険被保険者資格喪失届(様式第4号)を管轄のハローワークに提出することで完了します。
【目的】雇用に関する統計の作成、外国人労働者の雇用状況の把握
【内容】所定期限内(雇入れの場合は翌月10日、離職の場合は離職日から起算して10日以内)に届出を行わない場合、行政処分を受ける可能性があります。また、厚生労働省の外国人雇用状況届出システムの活用によるオンラインでの手続きも可能です。
2. 四半期ごと(3ヶ月に1度)の定期届出
特定技能外国人を雇用する事業主は、出入国管理及び難民認定法に基づき、四半期ごとに特定技能外国人との定期面談を実施し、その内容を記録した面談記録を管轄の地方出入国在留管理局に提出する義務があります。
【目的】特定技能外国人の雇用状況や生活状況を把握し、適切な支援が提供されているかを確認する。
【内容】受け入れ状況、活動状況、支援実施状況等に関する届出などが必要となります
3.変更事由発生時の報告
特定技能外国人の在留資格に関する情報に変更が生じた場合は、速やかに管轄の地方出入国在留管理局に対して変更届出を行う必要があります。変更事由には、外国人の転居による住所変更も含まれます。
【具体例】変更届出の提出が必要となる場面
・特定技能雇用契約変更届(基本給、手当、控除項目の内容変更が生じた際に必要)
・支援計画変更届(支援責任者、支援担当者などに変更が生じた際に必要)
・支援委託契約変更届(支援委託料などに変更が生じた際に必要)
・受け入れ困難事由発生届(特定技能外国人の退職時に必要)
特定技能ビザ申請時の注意点
特定技能ビザにて外国人雇用を計画していても、申請時に不備があるとビザの許可が下りなかったり、許可が下りた後に不法就労とみなされて行政処分を受けたりすることもあります。そのため、ビザの申請前に企業側では特に下記の3点に注意する必要があります。
①業務内容を確認する
特定技能の制度においては、各職種ごとに、外国人労働者が従事可能な職務内容が厳格に定められています。例えば、建設業では、土木、建築、ライフライン・設備の3区分が定められており、職種においても、とび職、左官、建築大工、内装工、配管工という具合に内容が明確に指定されています。つまり、特定技能の対象となるのは、指定された職務内容を遂行できる外国人労働者のみであり、それ以外の業務は、原則として特定技能の対象外となります。したがって、特定技能の制度を利用する際には、対象となる職種だけでなく、その職種における具体的な職務内容についても十分に理解しておくことが重要です。
②支援計画をきちんと立てる
1号特定技能外国人を受け入れる場合、日本での生活全般への支援が必要となります。
支援計画に含む必要がある項目は以下10個で、漏れのないように注意が必要です。
- 入国前の生活ガイダンスの提供
- 入国時の空港への出迎え及び帰国時の空港への見送り
- 外国人の住宅の確保
- 在留中の生活オリエンテーションの実施
- 公的手続等への同行、各種行政手続についての情報提供と支援
- 生活のための日本語習得の支援
- 外国人からの相談・苦情への対応
- 外国人と日本人との交流の促進に係る支援
- 非自発的離職時の転職支援
- 定期的な面談・行政機関への通報
特に、特定技能1号外国人に対する支援計画の実施は、策定・提出に加え、その適切な履行が事業主の義務となります。実施方法は、登録支援機関への委託または自社内での実施のいずれかを選択できますので、自社における支援体制を踏まえた判断が求められます。
③雇用条件等の受け入れ体制を整備する
特定技能外国人を受け入れる場合、特定技能所属機関は受け入れ体制を整備する必要があります。特に、以下の点は必須となります。
【フルタイム雇用】
特定技能はフルタイムの雇用形態を前提とした在留資格であり、パートタイムやアルバイトでの雇用は認められません。週5日、30時間以上の所定労働時間を確保する必要があります。
【同等以上の賃金】
特定技能外国人に支払われる賃金は、同種の業務に従事する日本人労働者に支払われる賃金と同等以上である必要があります。
【社会保険等の適用】
特定技能外国人も日本人労働者と同様に社会保険(健康保険、厚生年金保険)や労災保険に加入させ、その他の福利厚生も同様に提供する必要があります。
【有給休暇の保障】
特定技能外国人も、日本人労働者と同様に、法定の有給休暇を取得できる権利を有します。
これらの受け入れ体制の整備(要件充足)が難しい場合、特定技能の在留資格が不許可となる可能性もあり、十分に注意が必要です。また、特定技能外国人を受け入れた後も①外国人本人への給与②登録支援機関への支援委託費③在留資格の更新申請委託費などの維持費が定期的に発生する為、中・長期的な受け入れ体制の整備が重要といえることでしょう
特定技能ビザ申請は当事務所までご相談ください
特定技能制度は、その複雑性から、初めて外国人労働者の受け入れを検討される企業様にとっては、高いハードルとなる場合があります。弊所では、特定技能制度に関する専門的な知識と経験に基づき、企業様の円滑な外国人雇用をサポートいたします。
どんなに些細なご相談でも構いませんので、どうぞお気軽にご相談ください。